植物園を回り終えると、時計は正午を回っていた。
昼食は、札幌駅にほど近いホテルのランチバイキング。
マダムに料理をよそってもらったのは言うまでもない。
大方食べ終えたところで、マダムがバッグから包みを出し、私に差し出した。
そうだ、お土産。
あれ。
お土産……マダムへのお土産はっと。
ありました。横浜の自宅にありました。
後で送ります。受け取って下さい。ラーメンようかんではありません。ヌード耳掻きでもありません。
マダムからもらったお土産。
とってもいい香りがします。
ほどよい酸味と隠れた苦味。
歯ごたえたっぷりです。
とってもやわらかです。
美しくも力強いです。
軽やかです。
ずしりと来ます。
レストランを出た後、私達は線路沿いの道を札幌駅へ向かって歩いて行った。
途中、道端に立ちすくむ太った男性が目に留まった。2〜3人の男に詰め寄られている。脇には車が停まっている。接触事故でも起こしたのだろうか。恫喝する連中に返す言葉もなく押し黙る男性。
マダムと顔を見合わせた。
思いは一緒だった。
数秒後、私達は同時に頷き、再び歩き出した。
見なかったことにしよう。
15分後、私達はJRタワーの展望台から札幌の街を見くだしていた。
もとい、見下ろしていた。http://www.jr-tower.com/t38/
マダムと過ごす最後の場所。マダムと過ごす最後の時間。一昨日上ったさっぽろテレビ塔の展望台よりも見晴らしがいいように感じられるのが不思議でならなかった。
(注)さっぽろテレビ塔展望台は地上90m、JRタワー展望台は160m。
別れの時が近付いていた。
私達は横に並んで、展望台からの景色をただ眺めたたずんでいた。
おしっこもした
札幌駅でマダムと別れ、私は空港へと向かった。